AMSEA上映会|アントン・ヴィドクル『ロシア宇宙主義:三部作』

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ロシア宇宙主義は、司書であったニコライ・フョードロフ(1829-1903)によって提唱されました。彼はテクノロジーの最終目的としては、共同事業として、全人類が死を克服し、さらには死者を復活させるべきであると考えました。啓蒙主義や東洋哲学、ロシア正教の発想を組み合わせ、マルクス主義とも結びついたこのユートピア的な哲学は、1920年代後半にスターリン主義によって地下に追いやられるまで、幅広い思想家や政治家など知識人に影響を与え、ロシア革命後の新たな社会を想起する抽象記号や新しい工業的素材などを扱ったシュプレマティスムやロシア構成主義の芸術家や建築家を触発しました。また、不死に満ちた世界へと解き放つために、宇宙は開拓されるべきであるというフョードロフの信念は、彼の元教え子のコンスタンティン・ツィオルコフスキー(1857-1935)によってソビエトの宇宙開発へと受け継がれていきました。
現代アーティストのアントン・ヴィドクル氏による《ロシア宇宙主義:三部作》は、ニコライ・フョードロフのほか、哲学者や詩人の著作から引用し、エッセイ、ドキュメンタリー、パフォーマンスで構成され、シベリア、カザフスタン、白海、モスクワと、ソビエト時代の芸術、建築、工学の遺跡におけるロシア宇宙主義の影響の痕跡を探求し、ロシア宇宙主義の20世紀における影響を検証しながら、現在との関連性を提示します。個人的な父祖の追憶から、「飢餓、病気、暴力、死、貧困、不平等のない新しい現実を構築するため(共産主義のように)」ロシア宇宙主義の基盤を探る、第1部「これが宇宙である」(2014)にはじまり、太陽放射を心理学や社会学、政治と結びつけた生物物理学者アレクサンドル・チジェフスキー(1897-964)の太陽宇宙論から、政治運動や革命と太陽の活動の関係を探る、第2部「共産主義革命は太陽が原因だった」(2015)。そして第3部「全人類に不死と復活を!」(2017)では、宇宙主義の中心的な考えである復活と、死者との交わりの場所として博物館を舞台に進行していきます。哲学者ニコライ・フョードロフの『共同事業の哲学』は1943年に日本語に翻訳されており、アントン・ヴィドクル氏は、本上映作品《ロシア宇宙主義:三部作》を発表後、ウクライナのアナキスト、アレクサンドル・スヴャトゴル(1886-1937)による1922年の生宇宙主義のマニフェストに基づいた新作《宇宙市民》(2019、デジタル、シングルチャンネル、31分、日本語・英語字幕)を東京で撮影し、2019年4月にImages Festival(カナダ・トロント)、Art of the Real 2019(ニューヨーク・アメリカ)にてプレミアム上映し、さらなるつながりを持ち続けています。
本上映会では、《ロシア宇宙主義:三部作》上映後に、乗松亨平氏(近代ロシア文学・思想/東京大学准教授)を招いて「ロシア宇宙主義」と、その社会的影響や背景についてのレクチャーを行いました。

上映作品|
アントン・ヴィドクル《ロシア宇宙主義:三部作》(2014-2017/シングルチャンネル/96分/ロシア語、日本語・英語字幕)
第1部「これが宇宙である」(2014)
第2部「共産主義革命は太陽が原因だった」(2015)
第3部「全人類に不死と復活を!」(2017)

アントン・ヴィドクル/Anton Vidokle
1965年モスクワ生まれ。拠点はニューヨークとベルリン。e-fluxジャーナルの創設者であり、「マーサ・ロスラー・ライブラリー」(2005-06)、「ユナイテッドネイションズプラザ」(2006-07)などのプロジェクトを手がける。近年の主な展覧会に2015年「Field Research: A Progress Report」(ガレージ現代美術館、モスクワ)他。テート・モダン(ロンドン)、パリ市近代美術館、MoMA PS1(ニューヨーク)、ドクメンタ(ドイツ)、ヴェニス・ビエンナーレ、光州ビエンナーレ(韓国)、上海ビエンナーレ、イスタンブール・ビエンナーレ(トルコ)、リヨン・ビエンナーレ(フランス)、オカヤマ・アート・サミット(岡山)など、数多くの国際展にも参加。

レクチャー|
乗松亨平(近代ロシア文学・思想/東京大学准教授)
1975年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は近代ロシア文学・思想。著書に『リアリズムの条件 ロシア近代文学の成立と植民地表象』(水声社)、『ロシアあるいは対立の亡霊 「第二世界」のポストモダン』(講談社選書メチエ)、訳書にヤンポリスキー『デーモンと迷宮 ダイアグラム・デフォルメ・ミメーシス』、『隠喩・神話・事実性 ミハイル・ヤンポリスキー日本講演集』(いずれも水声社、共訳)など。

参照:
Anastasia Gacheva, Arseny Zhilyaev, and Anton Vidokle
Timeline of Russian Cosmism
https://www.e-flux.com/journal/88/176936/timeline-of-russian-cosmism/

Cosmism on Film: Anton Vidokle in Conversation with Kyohei Norimatsu
https://conversations.e-flux.com/t/cosmism-on-film-anton-vidokle-in-conversation-with-kyohei-norimatsu/7800

美術手帖 INTERVIEW 『なぜいま「ロシア宇宙主義」か? 「e-flux」創始者アントン・ヴィドクルに聞く』聞き手・訳=乗松亨平
https://bijutsutecho.com/magazine/interview/11265

AMSEAとは
 AMSEAは、様々な差異を持った人々と共に生きることを重視するアートマネージャーを育成するための東京大学を拠点とした教育プログラムです。ジェンダー/セクシュアリティ、人種・民族、移民・難民、国籍、宗教、年齢、障害、貧困、介護、差別など社会における諸問題、アートの現場におけるハラスメントや労働問題、作品・制作や企画・運営における倫理、表現の自由/規制、契約、著作権などを包括的に学ぶ機会を提供します。人文・社会科学的な知識や実務的な知識のみならず、アートプロジェクト実習、英語によるディスカッションや海外研修、ゼミ、シンポジウムなど、豊富なプログラムを通じ、社会的包摂のためのアートの可能性と有用性を模索し実践する人材の育成を目指します。

日時

2019年6月8日(土) 14:30~19:00

主催者

AMSEA(東京大学|社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業) 2019年度 文化庁 大学における文化芸術推進事業

協力

倉敷芸術科学大学芸術学部 川上幸之介研究室/EEE Program

参加者

一般 60名

関連URL

https://amseaut.blogspot.com

執筆者:BARBAR DARLINg(AMSEA事務局)



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