ダイバーシティワークショップ:多様性の交差路での「代話」

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9月12日、13日、17日、18日、30日に入澤充(山内研究室所属修士2年)により、『ダイバーシティワークショップ:多様性の交差路での「代話」』を実施しました。参加者は当事者ではないが、多様性について学び、自らのあり方を考えたいと思う非当事者(を自認する者)で、8月実施時は東京大学以外の学生を対象としていましが、今回は東京大学の学生を対象に実施しました。

ワークショップのタイトルに掲げている「代話」とは企画・運営者による造語であり、「代わりに話すこと」を意味します。ワークショップでは障害者や性的マイノリティなどの当事者の声を動画で聴き、その内容を動画を視聴していない他のワークショップ参加者に向けて当事者の代わりに話す=「代 話」するという活動が中心に据えられました。参加者は当事者の声と向き合い、代わりに話そうとすることで「当事者はこの時、どんな気持ちだったのだろうか?」や「非当事者の自分はどんな語り口 で話せばいいのだろうか?」などの疑問・葛藤と出会うことになります。そして、このプロセスの中で 参加者は自分が非当事者として持つ特権や意識せずに持っていた当事者への偏見に気づくことに
なります。

なお、ワークショップ中に視聴する当事者の語りを収めた動画は、当事者であることを自認する東 京大学の卒業生の協力を得て作成しました。それぞれゲイ、視覚障害、経済的困窮という当事者性を持つ3名に、1大学入学までの経験、2東大在学中の経験の二点について伺い、それぞれ動画にしています。

当日のワークショップは以下の流れで進められました。
1. 導入
  ○ アイスブレイク
  ○ キーワードの説明
2. 代話1
  ○ 当事者の動画の視聴
  ○ 当事者に向けたビデオレターの作成
  ○ 代話の実践
3. 代話2
  ○ 当事者の動画の視聴
  ○ 代話の実践
4. まとめ
  ○ 振り返りの対話

■ 導入
導入の時間では、安心安全な場作りのためのグランドルールを提示しつつ、全員で自己紹介を行いました。その後、社会的アイデンティティや特権などのキーワードについて簡単な説明を行い、参加者間の共通理解を作りました。

■ 代話①
この時間からいよいよワークショップの本番です。参加者は3人一組となり、それぞれが別々の当事者の語りの動画を視聴しました。ここでは当事者の大学入学までの経験、つまり子ども時代について話を伺います。次に、代話に入る前に、参加者は当事者に向けたビデオレターを作成しまし た。代話という活動は、当事者の立場に立とうという姿勢があるからこそ成立します。そのレディネスを整えるために、参加者には当事者に向けたメッセージを一度本気で考えてもらう経験をしてもらいました。そこで参加者は自分を何者として自己紹介したらいいのか?どんな言葉使いで感想を伝えたらいいのか?などを考えることを通じて、「非当事者の自分」を強く意識することになります。

ビデオレターの撮影を終えると、いよいよ代話の実践です。プレゼンテーション形式で、①当事者についてどんな話を聞けると最初思っていたか、②当事者はどのような人となりだったか、③当事者が伝えてくれた話の内容、④あなたが考える当事者が一番伝えたいメッセージの4点を参加者に話してもらいました。当事者の人となり、雰囲気、過去の経験の意味づけなど、全てを余さずに何も知らない第三者に伝えることはとても困難です。だからこそ、代話をする人は当事者の視点に可能な 限り立つことが求められます。参加者が一つ一つの言葉遣いや伝える内容の取捨選択に集中し、気を遣う姿がとても印象的でした。また、代話が終わった後は、代話を聞いていた参加者から質疑応答やコメントを共有する時間を設け、代話の内容についての理解を深めました。動画で知り得た 情報以外の情報を持ち得ないからこそ、参加者は想像を巡らせ、当事者の置かれた状況がどのようなものだったのかを話し合いました。

■ 代話②
2回目の代話の時間は1回目と少々方法を変えて実施しました。まず、当事者の語りの動画(この時間では当事者の東京大学在学中の経験についての語り)を視聴するところまでは同じです。ただ、代話の時間では、参加者に当事者の経験と自分の経験を並べて語ってもらいました。「当事者はxxxの時に〇〇という経験をしていたそうです。一方で、その時自分は〜」という語りの形式は、 代話する人に自分の持つ特権を振り返ることを求めます。参加者は当事者の動画を視聴し、代話することで自分が当たり前に享受していた特権と向き合うことになりました。

■ まとめ
この最後のまとめの時間では、ワークショップのファシリテーターから大学卒業後の当事者の歩みについて代話を行い、それを聞いた参加者間で「どのような人でありたいか?」という問いを受けた対話を行いました。参加者の多くが、「当事者の語りを聞くというワークショップだったので、何か辛い経験について聞くのだと思っていた。でも、今日出会った当事者のお話からは人生を前向きに力強く生きる姿を感じた」と語っていました。参加者の東大生にとって、動画で見た当事者は東大の、そして人生の「先輩」であり、多様性という価値を大切にして生きる上でのロールモデルとなったようです。参加者が「当事者の〇〇さんが言っていた『想像力』を常に大切にできる人になりたい」と、当事者の言葉を引用しながら話している姿がとても印象的でした。

ワークショップを実施してみて、多様性についての対話(そして代話)を行える空間の必要性を改めて強く感じることができました。参加者からは「自分のアイデンティティについて触れながら話ができる場が今まで大学になかった」という発言もありました。ぜひ、またの機会にさらにパワーアップした ワークショップを企画・実施できればと思います。

日時

9月12日、13日、17日、18日、30日

運営

情報学環山内研究室入澤充

参加者

25名

文責

入澤充



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