東京大学 本郷キャンパス 情報学環本館地下1階
東京大学情報学環 オープンスタジオ
ファンダメンタルズ パーク2026夏
アーカイブ 2026年08月03日(月)
2026年7月26日、東京大学大学院情報学環オープンスタジオで「ファンダメンタルズ パーク2026夏」を開催しました。ファンダメンタルズ プログラムは、科学者とアーティストがペアやユニットを組み、数年にわたって対話を続けるプログラムです。パークは参加者が3か月に一度集まり、交流の途中経過を持ち寄って話し合う場です。ほかのペアや外部のゲストの視点を通して自分たちの活動を多角的に見ること、成果の評価より考えのきっかけとなる言葉を場に出すことを大切にしています。会場は、2026年度からプログラムに参加する倉本大資さん(東京大学 大学院情報学環・学際情報学府)のご協力によりお借りしました。当日は会場7名とオンライン17名をつなぎ、2組の発表、展示会場からの中継、ゲストセミナーの4部で構成しました。
■ 数学者と美術作家がつくるワークショップ
最初の発表は、美術作家の前川紘士さんと数学者の中島啓さん(幾何学的表現論)のペアです。2021年度から続く交流を前川さんが報告しました。二人は今年4月29日、防府市青少年科学館ソラール(山口県防府市)で親子向けのワークショップ「すうがく×アート 手と頭で『空間の貼り合わせ』を体験する」を行いました。は紙を貼り合わせてメビウスの輪やトーラスを作り、後半は布の正八角形から二つ穴のドーナツ(ダブルトーラス)を組み上げて、その面に描いた線のつながりを親子で確かめました。質疑では、この取り組みを作品としてどう捉えるかが話題になりました。前川さんは、単発で見れば数学の概念を美術が図解する形にも見え、作品としての位置づけには課題が残っていると述べました。そのうえで、交流を重ねる中で、数学者と共に仕掛ける側として共有できている実感が増えてきたこと、そこから次の展開が生まれるかもしれないことを話しました。
■ 「アーカイブ」を目的にしてみる
続いて、情報生物学の杉井学さん(山口大学)が、アーティストの長島勇太さんとのペアの1年を報告しました。二人は月に一度の対話で共通のテーマを探し、長島さんの制作にも情報学にも通じる「アーカイブ」を選びました。そこから連想を広げる中で、研究者にとっても作家にとっても手段であるアーカイブを、あえて目的にしてみるという発想にたどり着きました。その発想から、山口県周防大島からハワイへ渡った移民の記録をめぐる展示「ファンダメンタルズ プログラム 成果展」(日本ハワイ移民資料館、10月2日〜25日)が生まれました。長島さんは移民の時代の周防大島とホノルルの毎日の天気予報を用いたインスタレーション作品を制作し、杉井さんは移民が口コミで近隣へ広がった過程の分析を展示しています。杉井さんは、科学者とアーティストは調査からプロトタイプ、テストへと進む手順が共通し、「問い」という言葉がそのまま通じることに驚いたと話しました。
■ 展示会場からの中継
休憩をはさみ、東京都江戸川区の遊工房アートベースキャンプで開かれていた展示「自ら由しとし研ぎ究める」(7月11日〜26日)とつなぎました。プログラムが3月に山口で開いた展示と発表の催しを受けて、プログラムに参加するアーティストの椛田有理さん・椛田ちひろさんが運営する同スペースが主催した展示です。山口で出展した科学者とアーティスト9名が出品し、この日が最終日でした。椛田有理さんの案内で会場を巡り、出品者がオンラインから作品を紹介しました。LED・蛍光灯・白熱灯の光の違いを体感する展示、対話をもとに体の動きについての考察を整理したマップ、錯覚を体験できる展示、絵画、ドローイング、インスタレーション、映像と多様な展示が並びました。質疑では、美術家がLEDに感じる「ギラつき」の正体と光のスペクトルの関係をめぐって、アーティストと科学者の議論が続きました。
■ ゲストセミナー「AIと哲学」
最後に、山口大学の脇條靖弘さん(ギリシャ哲学・分析哲学)によるゲストセミナー「AIと哲学」を行いました。脇條さんは、人間がわずかな経験から言語を獲得するのに対し、大規模言語モデルは膨大なデータから学ぶことから、両者は異なる種類の知性だと述べました。そのうえで、意識のハードプロブレムのように長く解かれずにいる哲学の問題は人間の認知の限界によるものかもしれず、人間と異質な知性であるAIなら答えにたどり着く可能性がある、という見方を示しました。質疑では、生き物ごとに異なる知覚の世界(環世界)の外側をAIは表現できるのか、ある言語でしか言い表せない味わいをAIは伝えられるのか、そもそも解けたことをどう確かめるのか、といった問いが科学者とアーティストの双方から出され、予定の時間を超えて議論が続きました。
2026年7月26日(日)14:00〜18:00
東京大学大学院情報学環オープンスタジオ(オンライン併用)
ファンダメンタルズ プログラム
倉本大資(東京大学 大学院情報学環・学際情報学府)
25名(会場8名、オンライン17名)
坪井あや(ファンダメンタルズ プログラム 代表)
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