Physical AI 時代のロボット教育 – 中高生が生成AIでロボットをつくり、動かすまでの4日間

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2026年8月4日から8日にかけて、東京大学情報学環オープンスタジオほかにて、豊島岡女子学園の中高生7名を対象とした「AIロボットワークショップ」を開催しました。本ワークショップは、情報理工学系研究科 情報システム工学研究室(岡田研究室)のアウトリーチ活動として、またGoogleとの社会連携講座で進めているプロジェクトの一つとして実施したものです。初日をオープンスタジオ、2日目以降を工学部2号館とし、4日間かけて「自分のロボットを構想し、つくり、動かす」までを一続きに体験してもらう構成としました。

私たちはこれまで、学習者が身体構成を組み換えられる再構成可能なロボット教材「Jedy」を開発し、中高生・大学生を対象とした実践を重ねてきました。これまでの実践では、物語からロボットのキャラクターを構想する「意味の探索」と、タスクの要求に合わせて身体構造を作り替える「機能の追求」とが、一つの教材の上で往復しうることを確かめてきました。今回のワークショップは、その次の一歩として、「意味を生み出す過程そのものを生成AIに開き、それを物理世界に着地させる」ことを試みたものです。

左は東京大学工学部機械情報工学科3年生がロボット・プログラミングを学ぶために使っており、右はこれを再構成可能ロボット(Reconfigurable Robot)として組み換え可能にしたものです。

近年、生成AIが物理的な身体と結びつく「Physical AI」への関心が急速に高まっています。一方で、AIに触れる教育の多くは画面の中で完結しており、生成された結果が現実の物体や環境とどう折り合うのかを確かめる機会は多くありません。実世界には、重さがあり、摩擦があり、部品には長さの制約があり、思ったとおりには動きません。そして、それらの物理量は画面の中の変数のように直接読み出せるものではなく、知りたければセンサで測るしかありません。どのくらい近づいたのか、どちらに傾いたのか、いま話しかけられているのか。そうした問いのひとつひとつに、距離センサ、加速度センサ、マイクといった具体的な部品が対応しており、返ってくるのは誤差やゆらぎを含んだ生の数値です。Physical AIとは、この「測ってから判断する」という手順を省けない世界でAIを動かすことであり、そこがデータの中だけで完結するAIとの決定的な違いです。Physical AIの時代のロボット教育とは、この「生成されたものが現実に出会う瞬間」を学習者の手に渡すことだと私たちは考えています。今回の4日間は、その考えをそのまま日程の構造に落とし込みました。

初日は、ロボットを動かすためのプログラミングから始めました。ここで大事にしたのは、「画面の中で完結させない」ということです。参加者はM5Stackのモジュール(Chain)をノートPCにつなぎ、距離センサ、つまみ、ボタン、ジョイスティック、傾きセンサから読める値を、自分の書くプログラムの条件として使いました。手をかざした距離が近いときだけ光らせる、つまみを回した角度で色を変える、ジョイスティックを倒した向きで塗り分ける、押した回数を数える。用意したサンプルはどれも十数行で、条件の書き方を変えれば、反応の仕方も変わります。実際に、「ボタンが押された」かつ「手が20センチ以内にある」ときだけ反応する、というように複数のセンサを組み合わせて条件を書いた参加者もいました。初日の終わりには、ボタンを押すとロボットがうなずく、つまみを回すと首がその角度を向く、というところまで進みました。光らせることが目的だったわけではありません。センサから読んだ値によって、現実の側の振る舞いが変わる。その仕組みを自分の手で書けた、というのがこの日の中身です。

初日の様子。センサやボタンの値を条件にしてプログラムを書くと、手元のLEDの反応がその場で変わる(左:切り替え前、右:切り替え後)。
各自のノートPCにセンサ類をつないで書いていく。2026年8月4日、情報学環オープンスタジオ。
まず用意したサンプルを順に動かしてみる。手をかざすと光る、といった短いプログラムから始めた。2026年8月4日、情報学環オープンスタジオ。

2日目は、生成AIを使って自分だけのロボットをデザインしました。「どんなロボットか」をことばで書くと、そこからAIが見た目のイメージを生成します。ことばを少し変えると出てくるロボットが変わるので、参加者は書き方を何度も変えながら、自分のイメージに近づけていきました。さらに、その見た目に合う性格を考え、性格に合った声をつくるところまでを行いました。姿・性格・声という、ロボットの人格にあたる部分を、ことばの試行錯誤だけで自分の手で決めていく作業です。

書いた性格からAIが画像プロンプトを組み立て、そこから見た目を生成する。ことばを書き換えるたびに、出てくるロボットが変わる。
決めた性格のまま応答する。語尾の癖まで含めてキャラクターになっている。
参加者がことばの試行錯誤でたどり着いたロボットたち。

3日目は、画面の中で生まれたロボットを現実のものにする日です。布やフェルトを使い、前日にデザインしたロボットの外装を手を動かしてつくり、骨格ロボットに着せて組み立てました。生成AIの出力を「そのまま出力して終わり」にせず、素材の制約と向き合いながら自分の手で立体にする過程を、あえて日程の中心に置いています。

型紙を当てて布を裁つ。手前にあるのは、この外装が着せられる骨格の側。2026年8月7日、工学部2号館。
前日に画面上で生成したデザインを、布とフェルトで実際の形にしていく。

最終日は、完成したロボットを実際に動かしました。2日目に自分でつくった声でロボットにしゃべらせるところから始め、声をかけると聞き取って返事をする、会話が続く、うなずく、というところまでプログラムを発展させていきました。自分が決めた性格と声を持ったロボットが、自分の書いたプログラムで応答する状態まで各自が到達し、最後に動く様子をお互いに見せ合いました。

完成したロボットをPCにつなぎ、自分の書いたプログラムで動かしていく。2026年8月8日、工学部2号館。
4日間で生まれたロボットたち。上の生成デザインと同じ6体が、実物になっている。2026年8月8日、工学部2号館。

4日間を通じて、参加者は次のような視点に触れました。

  • ことばから形をつくる: 生成AIを「答えを出してくれる道具」としてではなく、自分のイメージを何度も往復しながら形にしていく相手として使う経験をしました。
  • 生成物が現実に出会う: 画面の中で生成されたデザインと、布とフェルトで実際につくれるものとの違いに向き合い、構想を現実の素材に落とし込む難しさを体験しました。
  • つくったものが自分に応答する: 自分で決めた性格と声が、自分の書いたプログラムを通してロボットの受け答えとして返ってくる、という一連のつながりを確かめました。
  • 測ってから動かす: 距離センサやマイクで現実の側を測り、LEDや関節を動かして返すという入出力の往復を自分のプログラムで組み、1行の変更が現実の挙動につながることを確かめました。

中高生が最初の1日で、複数のセンサの値を条件に組み合わせ、ロボットの動きまで変えられるところに到達しました。そして、生成AIで描き出したデザインを手芸の素材で立体にしていく工程が、私たちの想定以上の熱量で進んだことが印象的でした。高性能なロボットやAIを与えるだけでなく、学習者が目的に応じて身体そのものを組み換えられる「余白」を残しておくこと。そして、その余白の中で生成AIの出力が現実の物理と衝突する経験を積むこと。この二つが、Physical AIの時代に多様な人をロボットの共同設計者として迎え入れるための入口になると考えています。今回の知見は、今後のアウトリーチ活動や、生成AIとロボティクスを結ぶ研究の進め方にも活かしていきます。

参加した中高生7名と、それぞれが4日間でつくったロボット。
日時

2026年8月4日〜8月8日(8月6日を除く4日間)

会場

東京大学情報学環オープンスタジオ(8月4日)
東京大学工学部2号館(8月5日・7日・8日)

主催

東京大学大学院情報理工学系研究科 情報システム工学研究室(岡田研究室)

文責

助教 矢野倉伊織(情報理工学系研究科 情報システム工学研究室)



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