東京大学 x 文京区 協働ワークショップ 「あなたの名所ものがたり’17 ぼくたち・わたしたち編」/Workshop “Your Story of a Famous Place, by Boys and Girls, 2017”

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1 名所を自分のものがたりに
あなたの名所ものがたりは、2016年度から始まった文京区との協働ワークショップです。文京区にある多くの名所旧跡を一般的な説明ではなく、そこに住む方や訪れる方の各々のものがたりとして語ってもらうことで地域の資源として捉え直し、その資源をコミュニティ・アーカイブとして蓄積し、地域の活力向上やまちづくりへいかしていこうという狙いを持っています。2016年度には大人たちに参加してもらったワークショップを2回実施し、2017年度の第1回目は子供たち(小学校4〜6年生)に、名所を語ってもらいました。

2. ファシリテータが引き出すものがたり
このワークショップではデジタル・ストーリーテリング(注1)のごく簡易的な手法を用いています。進行は、①練習問題、②名所への訪問、③ものがたりの制作、④発表、という4つに大きく分けることができますが、全編を通じて参加者と1対1で対話するファシリテータが重要な役目を担っています。
まず、練習問題で「昨日の出来事」をものがたりとしてまとめてもらいました。小学生たちはごく身近な経験を作文することになり、その際にファシリテータは担当した小学生と多くの会話を通じて打ち解けることができます。本番のものがたりを作ることの感触を掴むことと同時にアイスブレーキングの役割も担っています。
練習問題のものがたりを皆さんに発表したのち、本番で扱う名所を決め、その場所を訪問します。今回は本郷キャンパス周辺の範囲(本郷、西片、湯島の地域)を対象として、その範囲の地図や参考資料として文京区が作成している観光地図を用いました。
場所が決まると、自分がものがたりとして語りたい場所を訪れます。対象地に着くまでの間も小学生はファシリテータと様々な会話を通じて、その場所にまつわる個人のものがたりを深めていきます。対象地ではそこでの体験などを思い出しながらものがたりの内容を考えるとともに、本番で使用するための写真を撮影します。写真は最終的には1枚だけを使いますが、訪問の際には何枚も写真を撮ってものがたり制作の際の足がかりとします。
名所への訪問を終えて会場に戻ってきたら少し休憩した後、ものがたり制作に取り掛かります。写真(写真は休憩中に印刷されています)やファシリテータの取ったメモを参照して訪問先にものがたりを考えます。写真を1枚決めて、ものがたりを台本シートに書き上げて、録音装置となっている黒電話への録音が完了すると、ぼくたち・わたしたちの名所ものがたりが完成です。
このワークショップでの発表は、録音された音声が使われます。発表者が、題名と見どころを簡単に紹介したのち、選んだ1枚の写真がスクリーンに表示され、録音された音声が再生されます。発表後には、会場の皆さんと意見交換を行いました。小学生らしい楽しい意見交換となりました。

3. ぼくたち・わたしたちのものがたり
このワークショップでは、いわゆる「名所」を個人のものがたりとして捉え直すことを目的の一つとしています。今回のぼくたち・わたしたち編では小学生が主役なので、大人たちが取り上げる名所とは違ったものが名所として取り上げられることがありました。三四郎池や湯島天神といった大人たちと共通しそうな名所もあれば、例えば、文京区教育センターや文京シビックセンターの屋上など、大人が考える名所とは違う場所も取り上げられています。どの名所も参加した小学生たちの体験をもとにしたものがたりとして仕上がっています。どのようなものがたりかは成果サイト(http://bunkyomm.tumblr.com)をぜひご覧ください。

4. 特徴と課題
このワークショップの第一の特徴は、ひとりの話を丁寧に聞き出すために、ファシリテータと参加者が1対1となっているところです。この手法は、対象者が大人でも同様です。ファシリテータが親身に丁寧に話し相手となることで、ごく個人的な体験をものがたりとして語ってもらうことができます。
ワークショップの成果は、上述したサイトで公開されています。公開することで本ワークショップのもう1つの目的である、コミュニティ・アーカイブづくりを目指します。地域には様々な資源があります。いわゆる名所・旧跡はそれそのものが大事な資源ですが、個人的な思いもコミュニティに重要な資源だという考え方です。これらを丁寧にアーカイブすることで、地域社会がより豊かになっていくことでしょう。
さて、最後に課題についても触れておきたいと思います。このワークショップは文京区(文京ふるさと歴史館)の事業の1つとして開催していますが、これまでと違った傾向の事業なので参加者が多く集まりません。しかし、新しい取り組みであるが故にこれから興味を持ってくれる方が登場するのではないかということを期待していますし、もっと簡単な入り口を用意して参加の機会を広げるような工夫を取り入れていくことで、来年度以降もより実りある取り組みとして進めていきたいと考えています。

補注
1) デジタル・ストーリテリングについての詳細は小川明子(2016)を参照。小川明子(2016)「デジタル・ストーリーテリング:声なき想いに物語を」リベルタ出版

日時

2017年8月8日(火) 13時-17時

主催者

Storyplacers :真鍋陸太郎(東京大学)、水越伸(東京大学)、溝尻真也(目白大学)他

参加者

文京区に関わりのある小学生ほか 8名

関連URL

http://bunkyomm.tumblr.com

執筆者:真鍋陸太郎(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・助教)



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